期待
[2024/11/28,09:33:33]
新刊が出ると必ず買ってしまう作家が数名いる。これが要するに、わたしにとって「大好きな物書き」といっていい人たちだ。その一人に角幡唯介がいる。彼の新刊は『地図なき山』(新潮社)。サブタイトルは「日高山脈49日漂泊行」だ。もうタイトルからサブタイトルまで言うことはない。仕事中でも読み出しかねないほど、よだれの出そうな魅力的な書名だ。光のない北極を旅する物語以上のものを期待して、さっそく本書を読み始めた……のだが、期待はすぐに失望に変わってしまった。少し残酷な言い方だが、これはダメ、彼の著作の中では一番つまらない、これが正直な読後感だ。「よりよく生きるために私は地図を捨てた」という「はじめに」は、彼のこれまでの冒険行を理論的に振り返る、なかなか読ませる出だしだったが、本体の、地図なしで彷徨する山の物語は、読者がすっかり置いてきぼりで(なにせいっさいの固有名詞が出てこないのだから)、独りよがりの自己満足釣り紀行のような物語で終わってしまった。本人は楽しそうだが、読者は何も楽しくない。大好きな作家の一人なので、期待が大きくから失望も大きかったのかもしれない。読後はしばらく呆然としてしまったのだが、といっても最後までちゃんと読んでいるのだから、そんじょそこらのアウトドアライターとはレベルが違う。次回作に期待するしかない。頼むよ角幡さん。
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