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現代の郷土料理・ホルモン鍋
南部藩や鉱山文化の影響が色濃く残る鹿角地方には、いまも独特の食文化が根付いている。その代表が馬肉の鍋である「ナンコウ鍋」だが、これは鉱山病といわれた「ヨロケ(桂肺病)」に効くといわれたコンニャクや馬肉を食べるために考案された鹿角独特の食習で、南部がもともと日本の一大場産地だったこととも関連している。鉱山が縮小し、鉱夫が消えた今、ナンコウ鍋も廃れたが、それに換わって「ホルモン鍋」が隆盛を誇っている。信じてもらえないかもしれないが、鹿角の人にとってホルモン鍋は、今も家族でひんぱんに食べる家庭料理であり、郷土料理なのである。
食べ方はこうだ。熱したジンギスカン鍋に、甘いタレ汁に漬けておいたホルモンをぶちまける。流れ落ちたタレは袖の受け皿にたまるのですくいとっておく。焼くというよりも煮えたらすぐに上からキャベツを山盛り肉にかぶせ、その上からさっきのすくい取ったタレをかけながらアフッアフッ食べる。ジンギスカン鍋を使うこと。タレをかけて焼かずに煮ること。キャベツと一緒に(なにも付けずに)そのまま食べること……これが鹿角流ホルモン鍋である。
スーパーには「かずのの味」と銘打って幾種類ものホルモンが売られているが、肉屋さんでは「ホルモンはホルモン屋(焼肉屋)で買ってください」とにべもない。鹿角には有名なホルモン屋が2軒あり、タレの好みで人々は入る店を選んでいる。家庭でホルモン鍋をするときも好みのホルモン屋さんで食材のホルモンを買い、家で作るのである。私が食べに行った店でも「食べに来る客より買いに来る客が多い」と言う。火が通ったらすぐに口に放り込むホルモンに辛味はほとんどなく、いくらでも食べられる。病み付きになる味である。
家庭でもジンギスカン鍋で調理するがスキヤキ鍋でもかまわない。豆腐を加える人が多いので鍋に厚みがあるほうが便利なのだ。ためしに金物屋に行き、「ホルモン鍋ありますか」と訊いたら間髪いれず「2階の南部鉄コーナーに積まれてますよ」との返事。いやはや本格的な郷土料理である。
恐れ入ったのは若者たちが「ホルモン歌」という歌を作ってCDまで製作していることだ。その歌詞の一説はこうである。「グツグツ キャベツも煮えました/グツグツ 豆腐も煮えました/あふれる汁を すくいながら/たまには自分も 救われたい」。ホルモンの語源は関西弁の「放るもん=捨てるもの」だと信じていたが、どうも別の説もあるようだが、もう紙枚がなくなった。
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