No.149
幻想的なブナ林に酔いながら
[黒森山(764m・美郷町――2016年11月20日)]
 今にも降り出しそうな空だが気温はそれほど低くはない。横手高校の正面入り口から左に折れ、グングン山の中に入っていく。かなり高度を稼いでようやく「追分の一本杉」のある一の坂登山口に到着。霧というかガスがかかって眼下の町がまるで湖水に沈んだように幻想的に見える。
 まずは横手市側にある御嶽山の山頂を目指し、そこからさらに黒森山に抜け、黒森川の登山口に降りてくる縦走登山だ。
 落ち葉の敷き詰められたフカフカの極楽ロード。登山道はかなり湿っているので本来ならスパイク長靴が正解なのだが、最近お気に入りのキャラバンシューズ(安くて軽くてフィット感抜群なのだが滑りやすい)を選んだ。靴の選択も山歩きには重要な意味がある。
 11月月に入って八塩山、雄長子内岳といずれも予想以上に紅葉が全盛で「得した気分」を味わったが、今日の御嶽山はほとんどのブナの葉は落ちて木々は裸。それでも雨霞の中のもやったブナ林は幻想的でこの上なく美しかった。靄に煙る葉を落としたブナ林は天に屹立する城郭のような佇まいだ。

こんなブナ林を上る

下山は黒森側
 途中、羊羹のようなクマの糞を発見。緊張が走る。そうでなくても静かな秋の小さな山はほとんど人が入らない。都会の人には想像もできないだろうが、山遊びするほど暇ではないのだ。人が入らないとクマは自由自在に山を歩き回る。いたるところに雪が残っているが、まだまだ冬眠には早いから、今を盛りと食べまくっている時期だ。数分おきに笛を吹き、腰に下げたクマ鈴を鳴らし続ける。幸か不幸か今日は私が先頭だ。
 2時間きっかりで黒森山の透明な小屋に到着。透明というのは建材がプラスッチックの波トタンで建てられているためだ。小屋にはSシェフが芋の子汁を作って待っていてくれた。膝の調子が悪く今回の山行をやめ、黒森山側の登山口から登ってこの山頂で調理サポートをしてくれた。鍋は冷え切った体に活力を与えてくれた。牛肉に味噌味の山形バージョンの芋の子汁だ。
 下山は20分。縦走なので下山はあっという間。Sシェフが一の坂登山口から車を黒森側に回しておいたのだ。
 温泉は六郷温泉「あったか山」。シンプルだけど清潔感とお湯の滑らかさで好きな温泉だ。脱衣場もゆったりしているし露天風呂の温度も文句なし。
 家に帰ったのは午後3時。ここからタクシーに乗って駅前に出て市立千秋美術館で「木村伊兵衛の秋田」展を見にいく。月末は何かと用事があり、今日を逃がすと見に行けなさそうだからだ。見終わってすぐそばの焼き鳥屋「あべや」でビール。隣の「寛文5年堂」で稲庭うどん。たまにはこれぐらい贅沢しても罰は当たらないだろう。

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