白神のブナの森を彷徨う |
[小岳―1042m(藤里町) 2012年10月14日(日)] |
小岳は入山を禁止している秋田県側から唯一、白神の世界遺産の核心部分の全体を見渡せる山だ。山頂からは360度、世界遺産のパノラマが展望できる。だからもっと登山客が多くてもいいはずだが、ほとんどいない。この日も環境省の若い女性2名とガイド役の地元のおっさん2名、宇都宮からきた若い男性2名と単独の若者1名とすれ違ったのみ。「秋田は自然の宝庫」なんて身びいきの割には、山で地元の人と出会うことは少ない。特に地元民と合うことはほとんどない。 登りは1時間50分、下りは1時間半ほどの、「ほどほどの山」で足場も落ち葉の絨毯で歩きやすい。真昼岳ほどの美人揃いではないが、少年隊風の若々しいブナ帯とひねこびた一筋縄ではいかなそうな老ブナが入り混じる、懐の深い山である。今回の山行は男4名、女性1名の、モモヒキーズと外部の混成軍。淡々と登り続ければ、いつの間にかついてしまう難所のない山だが、歩きやすく、ロケーションもいいのに人気がない。これはひとえにアプローチの悪さに原因がある。昔に比べると県内の高速交通網は格段に進歩している。この白神山地・小岳のある藤里町までは高速道で1時間半もあれば着くのだが、ここからが問題だ。藤里町に着いてから、さらに山道をたっぷり1時間半以上、悪路を走り続けなければならないのだ。これは藤里駒ヶ岳も同じ。とにかくこの山道の悪路をえんえんと走るというだけで、たぶん車の所有者は二の足を踏んでしまう。こんなに不便な山だからこそ人跡未踏の歴史が長く続き、ひいてはそれが功を奏して、「偶然に」世界遺産になった、といってもいい。ちなみに30年ほど前の郷土史をひも解くと、この山は粕毛川源流域の最奥の峰として、ほとんど人の入らない静かな山だったようだ。それがブナの伐採で林道が伸び登山道も整備されるようになった。1971年に完成した素波里ダムは、このブナの伐採で土砂が大量に流れ込み機能が低下した。この日の素波里ダムの水位は猛暑のせいか干上がる寸前のような低さだった。 車の腹をゴシゴシこすりながら林道を進むと、数百mおきにキジとであった。Sシェフは小さいころ「山に入るならマキを持って行け」と言われたそうだ。マキをキジに投げつけて捕獲するためだ。なんとも非現実的な言い伝えのようだが、これは本当だった。キジは車が目の前にくるまでまったく逃げないのだ。これならマキで捕獲するのも簡単だ。
下山後の温泉は「ゆとりあ藤里」。ここはいま経営難が問題になっているところだが、湯はぬるめで好きな温泉のひとつだ。それにしても、ここ1週間で3回の山行か、ちょっと張り切りすぎだ。 去年の11月にもこの山に来ている。そのときは思わぬ雪で(下界は無雪)、車がスリップし登山道までたどり着けなかった。それでもあきらめず登山道まで歩いて登った。頂上の積雪は30センチ近くもあり、それはそれで楽しい雪山だった印象がある。このときの車は私のアコード。すでに30万`走っているオンボロ車でタイヤはツルツル、悪路も平気のポンコツだったが、この長いアプローチと悪路にはガックリきたのを覚えている。 |
●No.1 草紅葉の海で、なぜかパエリア |
●No.2 贅沢お昼と、お気に入り温泉 |