No.72
神室山は、やっぱりきつかった
[前神室山(1342m・山形県金山町)――2014年6月18日]
 今日も4時起き。前日から緊張はピークに達し、なかなか寝付けなかった。
 神室に行くのは5年ぶり。そのときは神室山(1365メートル)に登頂したのだが、今回は西ノ又ルートで神室山を横に見て前神室山に登頂し、パノラマコースを下りてくる。行きと帰りの登山道が違うが。前神室山には初登頂ということになる。
 登山開始は7時。豊かな緑の森を登りはじめる。登り口は秋田県湯沢市だ。天気はうす曇り。暑くもなく寒くもない。
 40分で最初のつり橋(一ノ渡)に出た。懐の深い山だ。しばらく歩くと二ノ渡つり橋が現れた。さらに森は深くなる。この吊り橋には床板が敷かれていないかった。最近まで雪が残っていたので取り外したままだったのだろう。橋を渡るのをあきらめ、川を直接渡渉することにした。Sリーダーが川にロープを張り、一人ひとりを引き上げてくれる。慎重に越したことはない。序盤で事故があれば、これだけ深い山では即刻引き返さなければならん。先が長いからだ。
 藪をこいで崖をよじ登る。二時間ほど歩き、不動明王を過ぎるといよいよ「胸突き八丁」だ。この山のハイライトである。体調は悪くないが、急斜度が切れ目なく延々と続く、1時間以上のこの坂を登りきれるだろうか。
 急坂地帯を半分ほど過ぎたあたりで、突然両ももにケイレンがきた。今まで経験したことのない強烈なやつだ。立っていられない。しばらく横にならせてもらう。仲間たちがマッサージしてくれ、サロンパスをぬってくれた。ここで引き返すにしても一人で下山は不可能だ。渡渉が2つあり、そのひとつは役に立たない。森が深く、道も複雑で、下山するなら全員で下りなければ、危険や事故は回避できない。みんなに迷惑をかけることになる。この坂さえ登り切れば、後は楽勝なのに……。自分一人のためにみんなの愉しみを犠牲にするのは、すこぶる後味が悪い。
 20分ほど休憩したら、どうにかケイレンは治まった。
 不安だが、みんなに迷惑はかけられない。登れるだけ登ってみることにした。
 山頂まで行けば後は下るだけ。下りで使う筋肉はまた違う箇所だ。そこに望みを託すしかない。
 30分ほどで胸突き八寸を抜けた。ケイレンはおさまっている。
 「御田の神」でランチ。ここで足を休めることができた。さすがにいつもと違って食欲はわいてこない。足のマッサージを入念にする。

つり橋に床板が敷かれていない

恩田の神でランチ
 西ノ又分岐から地名は秋田から山形に変わった。金山町だ。左に行けば神室山、右に行けば1時間ほどで前神室に至る。右に折れ、前神室山登頂をめざす。ケイレンはおさまった。延々とアップダウンが続く。不安は消えない。
 登る前、「神室は登りより下りがきつい」と脅された。でも下ってみると、それほどではない。登りとまるで違う筋肉を使せいか腿のケイレンはすっかり消え、逆になんだか身体全体が軽くなった。飛び跳ねるように下っても、身体のどこにも異状はない。
 パノラマコースを一周し同じ西ノ又駐車場に帰ってきたのは4時。登りに6時間、下り3時間、ランチタイムや私のケイレン休憩もいれればトータル約10時間半の山歩きだった。
 みんなに迷惑をかけたが、5年ぶりの神室を堪能した。秋田に登山口のある山でここが一番きつい山なのかもしれない。                   
 それにしても悔しいのはケイレンだ。このところきつい山に登ってもケイレンが来ることはほとんどなかった。考えられるのは、この日が水曜日だったことだ。3日前に田代岳に登り、その疲労が抜けていなかった。その疲労から足に負荷がかかった、というのが考えられる理由だ。いつもより2倍の水を持っていった(3.5リットル)ためザックが異常に重かったことも関係があるのかもしれない。汗の量が半端ではなかったのも理由がよくわからない。体調のせいだろうか。
                     *
 温泉は秋の宮温泉。広くて天井が高くて清潔で、いうところのない温泉。疲労がピークに達していたのだろう、湯に入っているうちに気分が悪くなってしまった。脱衣場まで戻るのがやっと。立ちくらみがして、まっすぐに立っていられない。トイレに入ってしばらく休んだ。ようやく服を着ることがっできたが、なんとまだ息が上がっている。谷川岳以来の症状だ。
 家に帰ったら晩御飯を食べる気力もなく、そのままベッドに倒れ込んでしまった。情けない。

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