No.76
夏山を甘く見るととんでもないことになる!
[真昼岳(1060m・美郷町――2014年8月3日)]
 暑い。連日30度をこす猛暑が続いている。暑さの中の山行は堪える。夏山と登山は相性がいいように喧伝されるが、その理由は日が長くなり、大きな山に登る時間的な余裕ができるせいだろう。ふだんであれば山小屋泊りの大きな山に夏は日帰りで登山可能になるのだ。
 だから夏山は朝3時起きが普通だ。疲労度も半端ない。暑さの中を10時間以上歩き続けるのだから当然といえば当然だ。日帰りをモットーに登っている初心者クライマーからいわせてもらうと「夏山はけっこう苦痛」でもある。朝が早くて山は暑くて歩行時間は長い、からだ。
 というわけで、このところ神室山、焼石岳(雨天中止)、鳥海山と、夏特有の大きな山が続いていて疲労もたまっている。そこでたまには息抜きをしようと今回は真昼岳に決まった。一服の清涼剤だ。
 真昼岳も赤倉登山口からだと3時間半は登りの続くハードな山なのだが、今回はグッとやさしく峰越登山口からのルートだ。こちらの登山口だと頂上までは約1時間半。尾根道をアップダウンを繰り返し、お花見をしながら、ハイキング気分で歩ける初心者コースだ。集合時間も朝7時。楽だなあ。

 峰越登山口に到着。このスタートがもうすでに頂上のようなもので、ここから北ノ又岳、音動岳、真昼岳と3つのピークをアップダウンを繰り返しながら、縦走ピストン。全員がハイキング気分で、荷も軽い。誰がどう考えても楽勝初心者コースだからだ。ところが北ノ又岳を超えたあたりで妙に身体が重いのに気がついた。仲間たちのおしゃべりも静まりかえって無口になっている。けっこうきついことに気がついたのだ。黙々と登りに専念しはじめた。
 暑い。猛烈な暑さが身体の自由を奪っていく。汗は容赦なく流れ、太陽が直接照り付け、首筋や顔が痛いほどだ。いくら水を呑んでも身体の渇きがやまない感覚がずっと続く。春のお花見や秋の紅葉シーズンの登りしか経験がないので、すっかり夏の峰越コースを舐め切っていたのだ。
 それでもどうにか、きついアップダウンを繰り返し、山頂に到着。2時間15分を要した。疲労度はかなりのもの。山頂にいた人から、「この山ではオオルリトラノオを見ないと登ってきた価値がありません」と突然アドヴァイスを受ける。岩手県側の登山道9合目付近に群生している美しい瑠璃色の花だ。せっかくなので(ほとんど岩手側のルートとは無縁なので)見に行く。これも予定外のアップダウンで、けっこう疲れた。

山頂にて

岩手県側から見た山頂小屋
 下山は苦しかった。暑さが徐々に体力を奪い、ボディブローのように効いてきた。おまけに音動岳を超えたあたりで水切れ。軽いハイキングのつもりで水の量も抑えてしまったためだ。私だけでなく仲間たちも同じ状態だから、もらうわけにもいかない。
 そんなこんなで下山も登りと同じくらいの時間がかかってしまった。もう完全に夏山をなめてしまった。
                *
 峰越登山口に下山、でもここから水の飲める自動販売機のあるところまでは30分近くかかる。もうのどは乾ききっている。我慢できるだろうか。
 そこに地元の人らしき軽トラに乗った夫婦がきた。近くに水場がないか訊くと、1キロほど下りたところに天然の水場があるという。やったぁ。
 延命水と名づけられたその山水は、冷たく甘くて、本当に命が延びた心持ちがするほどおいしかった。
 温泉は「柵の湯」。露天風呂が大きくて気持ちいい。最近は温泉もさることながらこうした場所で売っている「野菜」を買うのが定番だ。今日は枝豆。スイカ(一玉800円)も買いたかったが、これはちょっと荷として重すぎる。残念。

backnumber  ◆ Topへ