No.79
オコジョにもあった康新道の鳥海山
[鳥海山・七高山(2229m)――2014年9月7日]
 今年何回目の鳥海山だろうか。5回は登っているな。七高山は5月にも友人と2人で登ったし、新山は先月踏破したばかりだ。この山は何度登っても新鮮、そして、けっして楽には登らせてはくれない。チャレンジし甲斐のある私にとっては難易度の高い山だ。遊び気分で登るとすぐにしっぺ返しを食らう。
 今日は矢島口祓川コース。途中の八合目七ツ釜避難小屋から舎利坂への正規ルートをそれ右に迂回して康新道を登ろうという計画だ。
 天気は上々、暑くなるのだけが心配だが、山はもうすっかり秋。立ち止まるとすぐに身体がさわさわと冷え込んでくる。登り始めてすぐの雪渓でオコジョに会った。生れて初めてのご対面。ネコ目イタチ科のリスよりも小さな動物で、実にあいくるしい。先週のクマに続いて連続の「眼福」といっていいのかも。
 いつもは春の雪路を七ツ釜まで一息で登るのだが、夏道はそうはいかない。ごつごつした岩や石の階段は歩きにくい。雪路よりもずっと時間を食ってしまう印象だ。
 七ツ釜の小屋を横目に右に迂回、ここから登山客が少なくなる「康新道」ルートに入る。このルートでは通常よりも30分以上遠回りになるが、景観眺望の素晴らしさは時間に換え難いものがある。以前このルートを登ったのは3,4年前だったかな。そういえば40年近く前、本業で食えずテレビCM制作の仕事をやっていたことがあった。そのとき「出羽の富士」という酒のCMで、祓川小屋の佐藤康さんと私が山行後タケノコ汁を囲んで酒を呑み交わす、という設定のCMを撮った。このCMは10年以上も流れ続けてうんざりしたが、「康新道」生みの親の康さんはもういない。康新道を歩きながら、ありし日の康さんのことを思い出してしまった。

オコジョがいます(Sシェフ撮影)

康新道の眺望は抜群
 今回はメンバーに一人、初心者の新人の女性が入っていたため、何度か長めの休憩をとりながらの登攀になった。初心者にいきなり鳥海山はきつい。つい先ごろまでは自分も同じような存在だったので、みんなに迷惑をかけてしまうプレッシャーと戦うのは大変。当初4時間登頂の予定だったが、けっきょくなんやかんやで5時間かかってしまった。下山は祓川の正規ルート、舎利坂、大雪渓を下る。往路よりも距離は短いが、欠点は岩や石畳の道が長いことだ。この石の階段が曲者。土とちがってもろに力が腰に跳ね返ってくる。大地がクッションの役目を果たさなくなるのだ。これは身体にかなりの負担を与えてしまう。雪道の楽さを実感する。
 下山は3時間半。出発時には満杯だった駐車場には我々の車だけが残されていた。

 温泉は大内町にある大内温泉「ぽぽろっこ」。もう何度も言っているところで取り立てて印象はない。印象に残っているのは、帰りの車中。薄暗がりの中に浮かぶ月がきれいだった。「いいなあ」とつぶやいたら、明日が「中秋の名月」(旧暦8月15日)とリーダーに教えてもらった。秋の冴え冴えとしたコントラストや凄みのある月ではない。ちょっとボンヤリと温かみのある夏の名残りをしのばせる月。
 家に帰ってもう一度、下駄をはいて月を見に散歩に出た。大学病院裏手の森は真っ暗で月見には適している。うす山吹の輪の中にウサギとうすがこれ以上ないほどはっきり見てとれた。いやはやオコジョに次ぐこの日2度目の眼福である。この月を肴に酒を一献とも考えたのだが、現在プチダイエット中。日本酒はてきめんに体重増加につながるので焼酎で我慢。で、月にかこつけ焼酎を4杯も飲んでしまった。これじゃ元の黙阿弥だ。

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