No.83
隠れフアンが多い、紅葉の平原を行く
[大白森(1215m・田沢湖町――2014年10月15日)]
 田沢湖方面へと向かう道路を走っていると路上に交通事故死したタヌキの無残な死がい。実はこの1週間でタヌキの路上死を見るのは5回目だ。これはいくらなんでも多すぎはしないか。山の中のタヌキに何かが起きているのではないのか。ようやく山ろくでもはじまった紅葉の中を走りながら心は暗くなってしまった。

 今日の山は大白森。「山」も「嶽」も「岳」もつかない「森」だ。途中通過する1147mの小白森の正式名称は「小白森山」、大白森のほうだけ何もつかないのだ。大白森は山上がだたっぴろい平地になっている。その平原をワタスゲの白色が埋め尽くすところから、その山名がついたのだそうだ。「山」がつかないのは山上の平原のせいなのだ。朝8時30分、鶴の湯温泉横の登山口を出発。小白森山をめざして歩き始める。前回の鳥海山に続き今日も平日(水曜日)。だから登山客はだれもいないが、鶴の湯温泉だけは全国区の人気で、この時間帯から客の車の出入りが激しい。
 落ち葉を踏みしだきながら歩く山は気分がいい。いつまでも歩いていたい、と思ってしまうほど。鳥海山のゴツゴツで不規則な石の山に足や腰を傷めつけらたばかりの身には、落ち葉のクッションは夢見心地になるほど気分がいい。歩くたびに身体がリフレッシュされていき、まるで鳥海山のクールダウンをしているな気分だ。
 1時間半で鶴の湯分岐に到着。そこから30分で小白森山山頂へ。ここからさらに1時間ほどで大白森に到着。いつ来てもこの山上の平原は広々として開放感が気持ちいい。登山客は誰もいない。木道でランチの後、しばし寝っ転がってお昼寝をした。山に登ってこんなに長く(20分ほど)山頂でリラックスできたのは初めてかも。
 空には雲ひとつない。快晴で風もない。周囲は燃えるような紅葉だ。これ以上何を望むというのか。

山頂の木道でお昼寝

紅葉の絨毯

 下山中、若い女性が一人で汗をかきかき登ってきた。今日出会ったたった一人の登山者だ。落ち葉の道をスキップしながら軽快に下り続ける。最近はクマ笛をひっきりなしに吹くのが小生の役目だが、歩くことに気をとられて(気持ちいいので)笛を吹くのを忘れてしまう。去年はブナの実が豊作で、喜び勇んでクマたちは子作りに励んだ。そのせいで小クマたちが森にはうようよしている。例年に比べてまちがいなく山全体にクマの気配が濃厚に漂っているのがわかる。笛吹きの役目は重要なのだ。

 登り3時間、下山に2時間ちょっと。このぐらいの山が飽きない「ちょうどいい山」だ。
 前回の山から、長期間、体調不良のためモモヒキーズの戦線を離脱していた長老Aさんが復活した。すっとぼけたユーモアが持ち味の長老の復活はうれしい。目下もモモヒキーズの目標は「70歳を超えてもAさんのように元気に山に登りたい」なので、私たちの偉大な目標でもあるのだ。長老の唯一の欠点は口から出まかせのオヤジギャグを連発すること。今日も若い国際教養大のY君から「どうして急な坂を〈金トリ坂〉っていうんですか?」と質問され、「それは坂が急になると、前の人の股間が目の前にくるだろう。苦しくなるとその股間をにぎって杖代わりにする金トリっていうんだよ」とまじめな顔で講釈していた。Y君はすっかり感動した様子で「そうなんですか!」と納得。これが長老の真骨頂とはいえ、困ったものだ。Y君は朝日新聞に就職が決まっている将来有望な若者だ。くれぐれも真に受けないように注意するしかない。
 温泉はまたしても「花葉館」。「ええっ、また花葉館」という声が上がった。リーダーがここの「電気風呂」なるものが最近妙にお気に入りなのだ。しかし電気風呂は男女入れ替え制のため今日は女風呂にしかなかった。てラッキーだ。これと言って特徴のある温泉ではないが、天井が高く、露天風呂の温度も絶妙だ。電気風呂さえなければいい温泉なのだ。

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