Vol.1233 2024年8月17日 週刊あんばい一本勝負 No.1225

台風・酒量・バラクラバ

8月10日 20年以上前から「芥川賞」も「直木賞」も興味なし。3年もたつと作品はおろか受賞作家の名前すら消えてしまう。のだが今回の第171回の芥川賞、松永K三蔵『バリ山行』(講談社)は、その訳の分からないタイトルが気になって読んでしまった。関西の50人ほどの建装会社の社内登山グループが六甲山周辺の山登りをする話だ。山はともかく、それと同じ分量をつかって書き込まれている地方の零細企業の社内事情がなかなかリアルで、面白い。本文には「バラクラバ」という耳慣れない言葉が登山用語として何度か顔を出す。その説明もない。私だけが知らないのか。まあ興味があれば調べればいいので問題はないのだが、このへんの読者との距離感の「不親切さ」は逆に好感が持てる。

8月11日 今週のHP写真は信州・白馬の村の赤い郵便自動車です。ジムニーの郵便車というのは新鮮で、おもわずシャッターを切ったもの。昨日の新聞の出版広告欄に「運転免許認知機能検査模擬テスト」のテキストが出ていた。扶桑社刊で550円、2024年版で累計37万部突破。こんな「虎の巻」があるのを知らずに先日受験、合格はしましたが、16問中3問が思い出せず落ち込みました。隣のヨレヨレのジーサンまでがスラスラ解答していたのは、この本の存在があったのでしょう。明日は台風が東北直撃のニュースでもちきり。今日の朝の秋田(広面)は青空。その空のちょっと薄めの「清明さ」に、夏ではない季節の移ろいを感じたのですが、早とちりでしょうか。

8月12日 お酒は好きだが飲む量がめっきり減った。それでも晩酌に一杯の酒は欠かせない。酒はほとんど焼酎かウイスキーかワインで日本酒はほとんどない。なぜ日本酒を呑まなくなったのか。日本酒は「つまみ」を選ぶので面倒くさいからだ。蒸留系のアルコール度の高い酒が好きなのは自由に薄めて飲める利点があるからだ。医学的にはアルコールに害はあっても益はなし、というのだ最新の知見だが、時には少量の毒も心身には必要だ。

8月13日 台風は何事もなかったように日本海に消えた。オリンピックも終わり、高校野球も底が見え、竿燈やお盆の人出も薄れると「あたりまえの日常」が戻ってくる。読みたいと思っている本が仕事場や書斎にうずたかく積まれている。「おだやかな日常」のシンボルが本を読むことだ。

8月14日 なぜ人は醸造酒から、さらに加熱して高濃度のアルコールを蒸留したのだろうか。古代の西洋人は飲むためのアルコールではなく最初は「香水」をつくりたかったのだそうだ。つい先日、サッポロビールが甲州の勝沼ワイナリー閉鎖を決めた。若い世代のアルコール離れ、ワイン栽培農家の高齢化などが理由だ。100年前、知的、文化的な嗜好品であったタバコが、この20年であっというまに消え去ったように、酒もまた、これから先20年で見る影もなく暮らしから消えていくのかもしれない。

8月15日 お盆も変わらずカレンダー通りに仕事場にいる。昔は、帰省客が、この時期になるとよく訪ねてきた。だから彼らを落胆させないよう、お盆の間も休まず「店を開いていた」のだが、いまはそうした人もほとんどいない。東北旅行中という県外の人たちが訪ねて来るのも、そういえばこの時期だ。

8月16日 今日は35度をこす猛暑になるという予報だ。なるべく外に出ないようにして、散歩は日が暮れてからにしよう。筋トレも山行もしてないから、確実に身体はなまり始めている。この暑さで身体を動かすのは自殺行為だ、というエクスキューズでサボっている。後期高齢者にもなると、まずはどんなことよりも健康が優先だ。その健康を担保するのは、楽しくない筋トレという苦行なだ。楽して得られるものなんて、この世のなかにない。
(あ)

No.1225

照柿
(講談社)
高村薫
 オリンピックも高校野球もまったく興味ない。だからテレビもラジオもつけず、本を読むのには最高の環境だ。本書の刊行は94年、出た当時は重そうなテーマなのでパスしたが、なぜか急にケータイ電話のない時代の骨太な小説を読みたくなった。で、読みだしたのだが、面白くて止まらなくなった。結局2日間で8ポ2段組み500ページの、あまり好きではない警察小説を読了した。もともと推理小説というのは苦手で、ほとんど読まないのだが、この著者の『レディ・ジョーカー』は読んでいた。本書も同じ警視庁警部補・合田雄一郎が主人公のシリーズで、『マークスの山』に続く、これがシリーズ2作目だ。3作目の『レディ』を何も知らずに一番最初に読んでしまっていたわけだ。『レディ』もそうだったが、とにかくこの作家の凄い人間観察と描写力に、ただただ圧倒された。ケータイ電話の有無なんて、すぐれた物語とは何の関係もないことがよくわかった。人物描写のなかに「ラスコリーニコフのポリフィーリィみたいな奴」という表現があった。読者は『罪と罰』を読んでいるのが前提のような書き方だが、当時はまだ読者のレベルが高く、意味がわからなければ調べろよ、という作家のメッセージも含まれているのだろう。『マークスの山』や同じシリーズの『冷血』も読んでみようと思った。

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