１０月１９日　予報通り雨。昨日「海」を見てきたので、心の隅っこにその開放的な余韻が、まだたっぷり残っている。海沿いの食堂で昼は「おさしみ定食」を食べた。家に帰ったら、たまたま夕食も「あさしみ」だった。魚はあまり食べない。小さなころから苦手、というよりも食べ盛りはほとんどが豚肉のお世話になった。大人になってからも焼き魚や煮魚を骨だけ残してきれいに食べることができない。それが劣等感になって、ますます魚を食べなくなった。魚の食べ方を丁寧に教えてもらうのだが、実際にやるともうぐちゃぐちゃで、自分の裸を見られているような恥ずかしい気分になる。魚の中では比較的イカやタコが好きなのだが、たぶんこれは、奴らに骨がないからだ。

１０月２０日　日曜日の楽しみは夜の１０時台に放映されるＮＨＫＢＳ「団地のふたり」。短期間（１０回）の連続テレビ小説で今日が８回目だ。そういえばこの前の連続シリーズ「舟を編む」もシリーズを録画して全部見たなあ。この時の主演の池田エライサの、すっかりファンになってしまったっけ。今回も小泉今日子と小林聡美にすっかり夢中だ。彼女らの自然な演技が、今のテレビドラマからは考えられないほど洗練されていて映画風なのがいい。こうしてテレビドラマに夢中になるのも最近映画を見ていないせいかも。

１０月２１日　週末も山には行かず（天気も不安定）、ずっと趣味の（？）「拙者の散歩道−−路上の現代アート」というテーマで撮っているデジカメ写真の整理。趣味といえば活字関係のことばかりで、山を除けば無趣味同様だが、この自分の散歩道で撮った写真の撮影と整理（編集）は最近見つけた、心の底から楽しく、時間を忘れることができる趣味だ。ほとんどプラモデルと少年のような感じ、といえばわかってもらえるかもしれない。数百枚のわけのわからない、けれど愛おしい写真を整理しながら、こんなカットが足らない、あそこの場所ならいいショットが……などと夢想するのが無上の時間だ。週末はもっぱら近所の写真キタムラに入り浸って、気に入った写真のプリント作業。楽しかった。

１０月２２日　夜の読書は高村薫「冷血」だったが、あまりに凄惨な事件を描いているので、途中で気がめいって、やめてしまった。しかし手元には面白そうな本がない。こういった時の本選びほど難しいものはない。こんな「本詰まり」（ふん詰まりみたいだな）になると、最近は出久根達郎の本に頼る。それも小説ではなくエッセイだ。本にまつわる雑感や古本屋の日常を読んでいると、心がほんわかしてきて、気持ちよく眠れる。最近、出久根さんの新刊と出会わない。お元気なのだろうか。

１０月２３日　読み終わった本の処分はそれなりに工夫している。人にあげたり、オークションに出したり、ブラジルに送ったり……基本的にただ同然で、嫌な顔をされながら、業者に引き取られるのだけは、いやだ。本に比べてどうしようもないのが服。捨てられず若い時のサイズの合わないものが、たまる一方だ。友人のＦさんに頼んで中古業者に買取をしてもらうことにした。一回目は思ったより金になった。これに味を占めて、二弾、三弾目を準備中だ。ここでの売り上げはＦさんとの飲み会の「原資」になる。

１０月２４日　不在者投票のために駅に。なかの郵便局前で椅子に座っていた老女が目の前で突然崩れ落ちた。急いで抱き起してやったのだが、本人は何が起きたのかよく理解できないのか、きょとんとしたまま。こちらは老女が思ったより重いのに戸惑った。あきらかに「腕力が落ちている」。帰途、目の前を走る高齢者マークの軽自動車が、青信号の横断歩道に突っ込んだ。自転車の若者をはねそうになったのだが大事には至らなかった。驚いたのは、その青信号で突っ込んだ運転老人のほうが、あろうことが窓を開けて自転車の若者に怒鳴り始めたこと。崩れ落ちた老女も、自分のミスを認めない運転老人も、近い未来の自分だ。体と頭がさび付けば人間はこうなってしまう。

１０月２５日　事務所の絵の大部分を替えた。この間、夢中になって撮っている自分の写真にすり替えたのである。夜郎自大と言われて返す言葉もない。自分の毎日歩く散歩道の、ごく微細な風景を接写レンズで切り取った作品（？）だが、額縁に入れて一人前の格好をさせると、まあ「馬子にも衣裳」にはなる。それよりも驚いたのは、事務所にかかっている絵の数だ。全部でこの狭い仕事場に８枚の絵がかかっていた。そのうちもう何十年もそのままの応接室の黒田征太郎と金子義償の作品にはさすがに手を付けず、それ以外はすべて自分の写真に替えた。飽きればすぐにまた元に戻す覚悟はある。海のような心で許してほしい。