Vol.1238 2024年9月21日 週刊あんばい一本勝負 No.1230

また前岳通いが始まった

9月14日 7月13日に登ったのが最後だから今日の前岳はちょうど2か月ぶり。金山滝から登り始め、ゆっくり2時間10分ほどで山頂についた。温度は25度、風はなく薄曇りで、少し蒸し暑い。日ごろの筋トレのおかげで時間的ハンデを感じることはなかった。さすがにトレーニングはウソをつかない、とほくそ笑んだのだが、地獄は下山に待っていた。半分ぐらい下りてきたところから急に身体が重くなり、汗は滝のように流れ、両足が悲鳴を上げだした。のどの渇きもとまらない。「登りはスイスイ、下りはヨレヨレ」というやつだ。もろに筋力不足だ。

9月15日 見知らぬ人から『民衆交易―始まりの物語』という本が送られてきた。オルター・トレード・ジャパン(ATJ)が発行元だ。バブル崩壊直後、草の根市民運動として「ネグロスのバナナ」を輸入し、以後,フランス・ゲランの塩、パレスチナのオリーブ、パプアのカカオなど、地元の生産者をレスペクトする形で共同購入を呼び掛け、輸入運動を起こしたのがATJだ。でも私とは何のつながりもない。この運動の創始者が「堀田正彦」さんであることが本でわかった。堀田さんなら知っている。若かりし頃、黒テントの演出家だった人だ。本によれば黒テント芝居後、フィリピンの民衆演劇交流に注力、そこから「ネグロスのバナナ」輸入にたどり着き、日本の生協などと組み、この組織を立ち上げたとある。しかし20年12月、逝去。この本は堀田さんの遺稿集でもあったのだ。たまたま堀田さんの元で働いていた秋田出身で、この本の編集にも携わった方が、本を送ってくれた、という経過だ。

9月16日 一昨日に続いて今日も前岳。オーパスリフト口から登り、あわよくば中岳までと目論んだのだが、両太もものハリが取れず断念。こんな時、ひとり登山は「自由」がきくからいい。朝は天気がいいので布団を干し、朝ごはんも(インスタント牛丼)つくって、コミ出しもしてから登山口へ。この自由さは手放せない。昨夜は『片足で挑む山嶺』桑村雅治・幻冬舎)という本を読んだのだが、消化の悪い本で、幻冬舎の「やっつけ本」の類。今日の山で、あの富士登山でよく見かける半袖短パンの外国人中年夫婦を目撃。アザミもヤマビルもマムシもスズメバチも人種を選ばないないゾ。

9月17日 昨日は午後から来客。太平山系の「埋もれた石像」を調査、取材しているSさんだ、先日、上梓したばかりという『太平山系失われた石像」(私家版)を届けてくれた。先人たちの積み上げた記録を後世にバトンタッチをしていく。歴史というのは「靴」のようなものだ、と喝破した歴史学者がいた。この冊子もまぎれもなく、ひとつの山と時代を歩いた「靴」のようなものかもしれない。

9月18日 今年はブナが豊作で、去年のように冬眠前に人家に出てくるクマは少ないのではないか、という人がいた。先日、NHKのローカル番組で「イノシシ被害」について特集が組まれていた。キャスターとおぼしき若い女性が、番組の最後に「クマの狩猟文化の豊かな秋田で、イノシシの捕獲に関してその技術がないのに驚いた」と締めくくっていた。いやいや、もともと秋田にイノシシはいない。その存在が確認されたのは暖冬化の進んだここ10年のこと。捕獲技術も何も、存在しない動物に「わなを仕掛ける技術」は育ちようがない。暖かかったとされる縄文時代ならともかく、雪が降るようになってからの秋田にイノシシは棲めなかったのだ。

9月19日 ペルー・マチュピチュのバス事故が報道されていた。ふもとの町からマチュピチュの山頂まではつづら折りで、バスで延々と登らなければならない。当時も、山道は細く急峻、ドライバーがよそ見をしたりすると乗客はひやひや、アクロバットショーを観ている気分だった。おまけに外では観光客のチップ目当ての少年たちが、バスより早くゴールにたどり着こうと「駆けっこショー」を繰り広げる。リマに着いて、飛行機を乗り換えクスコまで1時間ちょっと。さらに3時間汽車に揺られマチュピチュ駅に着く。そこからさらにバスに乗って山を登る。とにかくこのバスが一番怖くて生きた心地がしなかったことを覚えている。そうか、あのバスがやっぱり……。

9月20日 この夏、一度も欠かさず魔法瓶(1リットル)にお茶を入れ仕事中に飲んでいた。梅干し(いただいたもの)も一個いれ、この効果はてきめんで夏の間、一度も脚の「攣り」がなかった。仕事場にこもりっきりになると腰痛も怖いのだが、これもゼロだった。散歩中に簡単なストレッチや筋トレをするようになり、これが良かったのだと思う。微妙なのは「朝食抜き」だ。これももうすっかり定着したが体重は減りも増えもしない。むしろ間食が増えてしまったが、1日の食事量は減っているのは間違いない。
(あ)

No.1230

砂嵐に星屑
(幻冬舎文庫)
一穂ミチ
 起き出すと右腕が痛い。「……なんでやねん」とつぶやいて、笑ってしまった。先日読んだ『バリ山行』は神戸・六甲山を舞台にした小説で、次は増山実『今夜、喫茶マチカネで』。大阪大学豊中キャンパス近くにある喫茶店を舞台にした物語だ。そして本書は、大阪にあるテレビ局を舞台にした連作短編集だ。ずっと関西弁の世界が繰り広げる活字世界に浸りきっていたせいだ。そのせいか頭の中がすっかり関西弁に占拠され、朝のひとりごとになってしまった。関西弁と小説は、テーマにもよるが相性がいい。TK(タイムキーパー)さんの物語。地震の日、歩いて局まで出社する定年の近いテレビマンの独白。初めて企画を任せられるダメディレクターの情けない日常。ゲイとトラウマのある若い女性の同居生活、腫れもの扱いの独身女性アナ……一見華やかな世界の裏側で、それぞれの年代やポジションのそれぞれの悩みが関西弁で鮮やかに切り取られている。大阪の人は独立独歩みたいな顔しているが、実は東京が気になって仕方がない、というのも事実のようだ。テレビ局で働く名もなき人たちが主人公だが、「春・資料室の幽霊」「夏・泥舟のモラトリアム」「秋・嵐のランデブー」「冬・眠られる夜のあなた」と4つの話からなり巻末の「砂嵐の花びら」は初版の付録のような形で付け加えられたもの。ままならない日々をやさしく包み込む、前を向く勇気をくれる連作短編集だ。

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