No16
彷徨っても漂っても、頂上は遠い
[七座山(287m)・二ツ井町―2013年1月20日(日)]
 高速道が二ツ井まで延び、県北地方の山へも気軽に出かけられるようになった。白神山系のように山懐が深くて、アプローチが長すぎる場所も残っているが、昔のように「敬して遠ざける」イメージはだいぶ薄れた、といっていいだろう。とくにこの七座山は身近になった印象が強い山だ。町場からすぐというのも立地もいいし、雄大な米代川と隣接する景観の美しいもバツグンだ。ロケーションが素敵なのだ。去年の初冬にも3人で登ったのだが、そのときは雪で登山道が消え、山腹を巻けど巻けど、山頂は見えるのに登ることができず、迷路に迷い込んだようで焦った。山腹にはいたるところに巨大な「奇岩」があり、天然秋田杉の巨木が、隠れるように山奥にひっそりとたたずんでいた。迷路に踏み込んでしまったせいで、ほとんどアドベンチャー登山を味わったわけだが、低山を侮るべからず、という基本を教えてくれた山でもあった。
 さて今回は厳冬期、大雪の真っただ中の七座山である。しっかり防寒対策をし、長くつにスノーシュー、男ばかり6人が、2台の車に分乗しての挑戦である。
 最初の誤算は、登山入り口まで車が入れなかったこと。やむなく500メートル以上離れた道路沿いの駐車場に車を止め、そこから歩き始めた。こんな大雪に登るもの好きはいなかったようで、踏み跡はどこにもない。交代しながら新雪ラッセルで、もうこれだけで汗だくになってしまった。
 登山道にたどり着いても、やはり道は消えていて、前回の苦い記憶がよみがえる。登りはじめて、みんなで意見を出し合いながら上へ上へと進むが、誰もが確証があってのことではない。みんな冬場の七座は初めてなのだ。
 しばらくして、見事としか言いようのない天然の秋田杉の巨木が現れる。これが曲者だ。まるで我々の入山を警戒するかのように、轟音を鳴り響かして巨木からものすごい量の雪が落ちてくる。そこから立ち上る雪煙りは、まるで雪崩のようだ。いたるところで巨木の雪崩が歓迎してくれるのだから、怖い。まともに直撃を受ければ首はへし折れるに違いない。
 さらに上へと歩を進めると突然、「奇岩」が現れる。巨木の生い茂る森の中に巨大な奇岩の取り合わせは、まるで異次元の秘境に迷い込んだような錯覚すら覚える。
 が、いっこうに頂上への稜線に出る気配はない。登りはじめて1時間半、これ以上歩いても稜線には出ないことが分かり、下山することに。またしても頂上は遠かった。
 踏み跡をたどっての下山は40分もかからなかった。
 そういえば去年、ラッセルを引き受けて先頭で登ったら、大きなウサギと鉢合わせしたなあ。今年中にもう一回チャレンジして頂上を極めたい。

米代川と七座の山並み

いたるところにこうした奇岩が
 温泉は藤里町まで逆走し(秋田市からみて)、「ゆとりあ藤里」。県北は県南に比べて日帰り温泉が少ない。選択肢が限られてしまうのが欠点だ。人口減の続く秋田県だが「道の駅」や「日帰り温泉」は、いつも年寄りたちがひしめき合っている。病院と日帰り温泉だけは都市部のような混雑が日常だ。
 下山後のお風呂は、はまず何といっても露天風呂だ。のぼせ易い体質なので顔面に風を感じながら入れる露天風呂が好きなのだ。身体を洗い、冷え切った身体で露天風呂に飛び込んだのだが、これがなんと水。冬場は露天はどうやら臨時休業のようなのだ。まったくもう。大きくどこかに表示してくれたらいいのに。

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●No.1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No.2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No.3 白神のブナの森を彷徨う
●No.4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No.5 巨木の森で、雨に追われて
●No.6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No.7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No.8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No.9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……

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