No17
動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
[男鹿・真山(567m)男鹿市―2013年1月27日(日)]
 ダイエットを始めてから3カ月弱。甘ものを控え、昼ご飯の外食を辞め、リンゴを食べるだけの安易ダイエットだ。朝ごはんも夕ご飯の晩酌も、いつもどおりなのだが、これだけでもう6k減。6キロ体重が減ると山が楽しくなった。苦しさがてきめんに軽減。厳冬期の山行はつらさが前面に出るのが常だが体重が減ったせいか苦にならない。
 というわけで、かどうかはよく分からないが、今日は朝4時半に目が覚めてしまった。早起きがダイエットとどう関係があるのか、それは不明だが、眠られなかったのが早起きの理由でないのは確かだ。夜中にものすごい雷と吹雪の轟音、それで何度か目を覚ましたが、比較的山行まえにしては、ぐっすり眠れたほうだ。  
 珍しい早く起きだったが、こんな日に限って集合時間はゆっくりの8時。時間がたっぷりある。いやありすぎだ。やることがない。朝ごはん(とろろご飯)を食べ、エンジンをかけて車内をあたため、ザックの荷物を再確認し、トイレにゆっくり入り、それでもまだ時間をもてあました。
 少し早いが7時20分、家を出た。その瞬間、玄関先に今日一緒に行く予定の山仲間が、「1時間、遅刻です。迎えに来ました」と立ちふさがった。エッ、7時だったの。オレ完全に8時だと思いこんでいた。
 さらに意外な事実が告げられる。今日の山は森吉山。毎年この時期恒例の樹氷散策である。ところが夜半からのものすごい吹雪と大雪。たぶんゴンドラが風のため運航中止だろう、とリーダーが中止を決定、近場の男鹿・真山に急きょ変更となったというのだ。出発時刻に遅刻、おまけに目的地は変更、早起きが災いを呼び込んだのだろうか。厳冬期の森吉山は標高が1400メートル。並の寒さや風の強さでないことは何度も経験済み。そのため靴下は3枚重ね、パンツも下着も入れれば4枚重ね、と万全の準備をした。が、男鹿は逆に秋田では最も雪が少なく温かい地域だ。まいったなあ。

左が寒風山、右は日本海

頂上神社下の雪のテーブルで食事
 自宅から1時間ほどで男鹿真山神社到着。昔の行者が苦難の末に切り開いた「お山かけ」の道をスノーシュ―で登りはじめる。雪がない季節でもけっこう登りがきついことで知られる山だ。
 登山道に踏み跡はない。人間だけでなくウサギやカモシカの動物の踏み跡もない。後ろから仲間が「動物がいないのは、なまはげがこわいから」とまじめに解説していた。今回も先頭は私。みんなにダイエット自慢をしたのが裏目に出て、ラッセル隊長に祭り上げられてしまった。思っていたより雪はしまっていて、ラッセルは楽だったが、このくらいの雪と勾配(急坂)であれば「スノーシュ―よりカンジキがよかったかも」という声も。
 登りは2時間強、けっこうきつかった。頂上にある真山神社奥宮の建物の下に雪のテーブルを作って食事。冬場はバーナーで温かい湯を沸かしカップめん、というのが定番だ。おにぎりは冷え切って、おいしくないからだ。私のバーナーはコンパクトなやつで火力が弱い。低温状況では着火が悪く、冬場はほとんどまともに使えない。コンロを冬用プレミアムに変えなければならないのだが、面倒でいつまでもそのままにしている。けっきょく今日も着火が悪く、火力も上がらず、他の人のバーナーを借りてお湯をもらう羽目に。猛反省。
 下山は45分。寒いので走るように下りてきた。仲間のひとりが登り始めから調子が悪く、途中リタイアすることになった。登る前に食べたものと、スノーシュ―をはくのに手間取り、遅れを取り戻すために最初からペースを上げたのが不調の原因のようだ。気分が悪くなり何度か吐いたものの、けっきょく回復せず、途中下山した。
 去年暮れ、黒森山をスノーハイクしたとき、先頭を切ってラッセルしていたベテランNさんが急に気分が悪くなり、体調不良でうずくまってしまった。その後、病院で診断してもらうと、意外な病名を告げられた。「気象病の疑いがある」というのだ。
 気象病というのは近年認知された症状で、わかりやすく言うと「天気が悪くなると古傷がうずく」というやつだ。とくに秋田の山ではハタハタの季節に天候不順になることが多く、気圧の変化の激しい山などで気象病が多く発症する。低気圧で血行が悪くなり、体がむくみ、自律神経のバランスが崩れる。要するに等高線の混みあった山で特に気圧の変化に身体(脳)が対応できなくなる病気である。怖いなあ。天候と健康は直接かかわっているのだ。
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 温泉は「温浴ランドおが」の「なまはげのゆっこ」。はじめてきたような気もするが中に入って脱衣所にかすかに見覚えがあった。どこといって特徴のない温泉で、入湯料も300円と安い。気泡浴やジェット浴がメイン、で露天はなし。がっかりだが、まあ、すいているのがいい。カラオケの大広間があり大音響で歌声が響きわたっていた。
 最近は入浴後、必ず体重計に乗るようになった。体重計はわが生涯でずっと「敵」だったが、こんなに友好的になれるとは夢にも思わなかった。朝、家で計った時より400グラム増。山の帰りなのに体重が増えたのには訳がある。普段は甘ものとお昼が御法度なのに、山行の日に限ってはOKでだ。そのため山中で飴や羊羹、おにぎり、カップめんをしっかり食べた。3カ月ぶりに食べた羊羹の甘かったこと。身体に甘味がしみこんでいくのが実感できたほど。ま、だからこれも想定内である。帰りの車中では早起きの影響か、ぐっすり寝込んでしまった。

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●No.1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No.2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No.3 白神のブナの森を彷徨う
●No.4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No.5 巨木の森で、雨に追われて
●No.6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No.7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No.8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No.9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い

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