No21
冬は近場にこそ遊び場がある
+ついにシュールストロミング開缶!
[大滝山(206m)秋田市―2013年2月23日(日)]
 今回も滝だ。前回の小又川大滝よりは小さくて落差は10m。、山麓にあるので、まじかで見られるのが特徴だ。
 前日の天気予報では大雪注意報が出るほどの悪天候だったが、山懐の最後の集落にある「神乃湯温泉」に車を止め、歩きはじめると前回の小又川大滝と同じくピーカンの青空になった。こういう予想外れは大歓迎。
 秋田市・千秋公園の5倍もあるという公園真ん中の貯水池の周辺を歩きはじめた。去年も何度かこの冬の公園を歩いているが大滝山山頂まで行くのは初めての経験だ。数年前、夏に一人でこの山に登ったことがあった。誰も登らないせいか登山道はクモの巣だらけ、全身がクモの糸にからめとられ、すこぶる気持ち悪い思いをした。
 今日の主催は「山の学校」。F校長が足の故障で久々の復帰戦である。6名のメンバーもみんな久しぶりに会う人たちで、しばらく見ない間に、小生がスリムになったことに驚いている。 この4カ月で体重は8キロ減。ときには10キロほどまで下がったが、まあ平均8キロ減というところに落ち着いている。エヘン。
 それはともかく青空の中を歩いて、登って、這いつくばって、やせたねぇ、とおだてられ、猿も木にのぼった。先頭のラッセルを引き受け、そのまま頂上まで突っ走ってしまったのだ。最後の急登はさすがにきつく、息が上がってへとへとだった。
 頂上の四阿は風が強く、下のスギ林に下りてランチ。今日も「マルちゃん正麺」。昼食が楽しみになり、このラーメン以外は何も持っていく必要がなくなった。いづれ飽きがくるだろうが、それまではこれ一本でいこう。
 ラーメンを食べるようになって、冬場も水は2リットルが基本になってしまった。小さな山でも2リットルの水がほとんどなくなるというのは、冬山でも汗をかき、身体が水分をほしがっているのだろう。
 登りに2時間、下りに1時間。下りは2班に分かれて下りたのだが、わがグループは道に迷い、けっきょくは別グループの足跡をたどって下山。小さな山だと言って侮るとこういう目にあう。

青空に雪の森が映える

これが噂のマルちゃん正麺・醤油味
 温泉は秋田市内に戻って「秋田温泉プラザ」。とろりとしたやさしい肌さわりのお湯で、木造りの露天風呂は、けっこうお気に入り。おとなりが先週も行った「りらっくす」なのだが、入浴料が同じ(520円)なので、いつもどちらに入るか迷ってしまう。今日の時点ではやっぱり、こちらの勝ちかなあ。
 昼の2時には家に帰ってきた。「山のある日は夕飯はいらない」とカミさんに言ってあるので、自らスーパーに買い物に行き、つまみを作り、ウイスキーを飲みながら事務所でひとり鍋。最近「糖質制限食」の本を何冊か読んだせいか、日本酒やごはんといった炭水化物は意識的にとらないようにしている。そうした流行りの説にかぶれたわけではない。4か月前から独自の理論で(といっても甘ものをやめ、昼を外食からリンゴに変えただけ)ダイエットを始めて8キロやせた。そんな時に偶然手にしたのが藤田紘一郎著『50歳からは炭水化物をやめなさい』(大和書房)だった。企業のちょうちん持ちの「ナンチャッテ医師」の本ではない、科学的にも文筆家としても実績のある人物の本なので買い求めたものだ。
 この本が実に役に立った。読んだ時すでに6キロ近く痩せていたから、本の影響を受けなかったが、その理論の言うところはストンと腑に落ちた。人間の体は50歳を境に大きく変わる。それを男も女も年齢も体重も風土も環境も考慮に入れず、一律のダイエット法で枠に閉じ込めようとする、これまでのダイエット法は明らかにおかしい。この本は明確に「50歳から」と区切りを設けているのが新鮮だ。
 もう5キロは体重を落としたい。これまでが太りすぎなので、このぐらい落としても何の支障もない。糖質制限を積極的にこれからのダイエットに取り入れていこうと思う。
                      *
 このスノーハイクの2日後、河辺の山里にある「山の学校」に用事があり、出かけ。直前にモモヒキーズの実質的なリーダ−であるSシェフも誘い、一緒だ。実は「山の学校」敷地内で、シュールストロミング(スウェーデンのニシンの缶詰・臭いので世界的に有名な食べ物だ)の缶詰を開けようと思い立ったからだ。一人だと心細い。
 この缶詰は大仙市刈和野のギャラリー経営者Kさんからいただいたもの。入手してから10年近くたっているので、缶詰そのものがパンパンに膨らんでいる。生のニシンを缶詰にしているので発酵が進んでいるのだ。いつ爆発してもおかしくない状態で、去年いただいたのだが早く開缶しなければ大変なことになる、と気に病んでいた。
 河辺の人里離れた場所なら、少しぐらい匂いが漏れてもだれにも迷惑はかからない。
 Sシェフは理系の人、1級建築士で造園の免許も持っている器用な人だ。事前に開缶が安全にできる手作りの木工ツールを作ってくれた。千枚通しでギロチンのように真上から缶に穴を開け、空気を抜いて安全を確認してから2重にビニール袋で覆って、缶きりで開缶、という作戦だ。
 「山の学校」玄関前で作業を開始。F校長はデジカメで写真記録係。Sシェフは怖がってなかなか缶詰に近づいてくれない。作業は私一人で行ったのだが、ビニール袋で飛沫防止しているのに、缶から噴射した臭気は空気感染のように身体にまとわりついてきた。強烈な異臭だ。大量の生魚の匂いをさらに発酵させ、濃縮したような異臭だった。かすかに甘い魚の香りも漂っているのが食物としての矜持をうかがわせる。
 スウェーデン人はパンにはさんでこの缶詰を食べるという。時間がたっているせいか中身はドロドロ、わずかに数片の骨が散見できたが、とても食べられるような状態ではない。正直なところ、助かった。これで周りに「食べてみろ」といわれれば食べざるを得ない状態だったのだ。
 じっくり写真撮影をした後、急いで中身を雪の穴の中に捨てた。クマや小動物、鳥たちが掘り返して食べてくれるだろう。匂いが残るカラの缶詰は、帰りに川べりでよく洗い、梱包して「燃えないゴミ」に出した。肩の荷が下りた半日だった。
 (「山の学校」F校長の後日談だが、翌日にはこの雪の穴は無数のタヌキたちによって掘り起こされた形跡があったそうだ。恐るべし雑食性タヌキ)。
撮影・Sシェフ

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●No.1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No.2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No.3 白神のブナの森を彷徨う
●No.4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No.5 巨木の森で、雨に追われて
●No.6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No.7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No.8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No.9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学

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