No26
登山道のないやぶ山で、昆虫になる
[犬吠森(809m)・鹿角市―2013年4月14日(日)]
 4月に入って雪が解け、いよいよ本格的に「雪のない山」シーズンだ。
市長選と県議補選のあった7日、去年、不覚にも道に迷って山頂を断念した七座山リベンジ登山の予定だったが、前日からの風雪注意報で中止。こんどこそ山頂に、といきこんでいたのだが残念。
 4月2週目の13日には秋田県で一番早く春の花が咲く男鹿・毛無山にフクジュソウを観に行ってきた。花見ハイキングである。これはもう恒例行事で、この時期、ここでフクジュソウやカタクリを見て、「春がきたねえ」と自己確認をする。 近所には千秋公園という桜の名所があるのだが、もう何十年もそこで「お花見」をしたことがない。山に登るようになって、いわゆる「桜の花見」とは無縁になってしまった。なにせ山中では5月ごろから7月終わりまで、山桜をいつでもどこでも目にすることができる。わざわざ雑踏に出かけて酒飲みたちを見に行く必要がない。
 春の陽光にキラキラ輝く海をみながら、男鹿の花見ハイキングはまさに贅沢の極み。カタクリとイチリンソウとフクジュソウの赤、白、黄色の豪華3点お花畑で、F女史が野点。まさに戦国大名もかくやという豪華な「お遊び」である。私は半東(飯頭)役をおおせつかり、ちょっぴり緊張。遊びには「約束事」も重要だ。お天気にも恵まれ、今年のお花見ハイキングは無事終了。海も穏やかできれいだった。
                    *
 翌日は鹿角市・米代川水系の尾根筋にある犬吠森。けっこうハードな急峻とやぶの山だ。秋田県内でなじみが薄いのは、登山道がないためだ。雪でやぶが隠れている今の時期にしか登れない。厳冬期には登り口までの道路が積雪で通れなくなる。
 登り口まで延々2時間も林道を歩かなければならないのが、この山の最大の欠点で、これがいやで登らない人も多いのだそうだ。
 登山の山としての知名度はないが、「佐多六とシロ」というマタギ伝承では有名な山だ。カモシカを追って山中に入ったマタギ・佐多六が、狩猟免許不携帯で処刑の憂き目にあう。それを見かねた愛犬シロが家に急いで戻り、秘伝の巻物(免許証)を銜えて山に戻ったが、主人はすでに処刑されていた。それを嘆き悲しんで遠吠えした山、なのである。ほとんど「走れメロス」と忠犬ハチ公の世界だ。  それにしても平地を歩くのはうんざり、飽きてしまう。それも片道2時間となると半端ではない。途中、昭和初期まで隆盛した鉱山跡地がある。400家族も住んでいたというから、かなりの規模だ。もうあとかたもないのだが学校跡地まである。銅の搬出に使ったトロッコ跡や生活道路も、もうほとんど自然に還りかけている。
 そんななか、とりわけ印象的だったのが友子の墓所だ。「友子」というのは鉱山の同職組合のこと。芸者の名前ではない。江戸時代から、鉱山では飯場制度とうまく結びつき、抗夫たちの間に親分子分の関係をつくり、友子にならないと一人前の坑夫と認めなかった。その友子の墓も風雪で倒れたのか、無残な姿を見せていた(3人がかりで元に戻しておいた)。
 うんざりする林道歩きにすっかりあきたころ、山間にきれいな三角形の犬吠森の眺望がみえた。2時間歩いて、さらに1時間45分かけて山頂にたどり着く。林道歩きと違い急角度の斜面を目の当たりにすると、なんだかゾクゾク心が弾む。身体がすっかり山歩きモードになっている。平板より登りが好きなんて、なんだか1人前のアルピニストになったような気分だ。

犬吠森の山頂で

友子の墓
 でも楽な山なんて、ない。すぐそばに山頂が見えるのに、手前の20mほどのやぶを超えるのに10分もかかってしまった。まるで蜘蛛の糸にからめとられた昆虫だ。
 山頂は風が強く昼ご飯を食べるスペースがない。急いで林道まで下り、昼食。下りもダラダラ歩きですっかり体力を消耗してしまった。登り3時間45分、下りに3時間。いやはや疲れた。
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 温泉はパス。下山時に4時を回っていたから、秋田市に帰ると7時。風呂に入っていると秋田市着が9時近くになる。
 山に登った後、風呂に入らないと気分はイマイチだが遠隔地だから、しょうがない。帰りの車中ではぐっすり寝入ってしまった。秋田市に着いたあたりで雨。なんのかんのいっても、運がいい。

これが男鹿のフクジュソウ

お花畑で野点(と半東の私)

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●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る

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