No29
街から7キロ先に、千メートル級の山があるの?
[五ノ宮嶽(鹿角市・1115m)――2013年5月12日(日)]
 もともと盛岡(南部)藩だったこともあり、秋田の人の鹿角への知識は乏しい。食文化も岩手県に近いし言葉だって同じ。戊辰戦争の論功行賞で薩長からいただいた土地なので、なじみはまったく薄い。だから毎年、いまでも市議会では「岩手に戻りたい」という議案が出されるのだそうだ。世界中旅したが鹿角にはまだ行ったことがない、とまじめに言う秋田県人も少なくない。実際に行ってみると、かなりおもしろい場所で、食文化も新鮮だ。きりたんぽ発祥の地としてしか認知されないのが歯がゆい。
 その鹿角近辺には白地山、十和利山、中岳、五ノ宮嶽と、千メートルクラスの素晴らしい登山コースが目白押しだ。どの山も味があって眺望もいい。
 その五ノ宮嶽に登った。花輪の町から直線にしてわずか7キロしか離れていない場所に千メートル級の山がある、というだけでも秋田では珍しいこと。自然の豊かな山で動植物も豊富と聞いていたが、山頂付近でヒメネズミの赤ちゃんと遭遇した。まったく警戒心がなく、持ち帰りたくなるほど可愛かった。しかし、どうやらヘビのメッカでもあるらしい。幸いなことに合わなかったが。
 太平山と同じくらいの山なので一応アイゼン(8本爪)も用意したが、7、8合目近辺で少し使っただけ、坪足で充分だった。息が切れるような急坂もなく、かといって平坦な登山道も多くはない。スギ林やカラマツ林、ブナ林を縫いながら2時間半で山頂に着いた。歩きやすい登山道だ。登りはじめは風がなく、蒸し暑くて汗を大量にかいたが8合目あたりから気持ちいい風が吹き出した。アップダウンを繰り返し、広い眺望のいい山頂へ辿り着く。 山頂の山小屋で昼食。この山頂小屋にはりっぱな神社がある。継体天皇の五ノ宮皇子が祀られている。古来より信仰の山として鹿角の人たちにとっては大切にしてきた山なのだ。
 下山はアップダウンがあったせいか2時間もかかってしまった。花は今ひとつぱっとしなかったが、途中の見えない崖下に、大振りなシラネアオイ2本が隠れるように咲いていたのが印象に残っている。

山頂の眺望を汚す立ちション

せっかくのセルフタイマーを邪魔する人
 温泉は大葛温泉。入湯料100円と聞いて、ヤバイとは思ったが後の祭り。一番いやなシャワーなし、石鹸・シャンプーなしの「名湯・秘湯」の類だった。常日頃から口を酸っぱくして「名湯・秘湯」はイヤ。温泉に入るのが目的でなく山の汚れを落としたいだけ。近代的設備(シャワーと洗い場)があればいい」と言っているのに、だれもまじめに聞いてくれない。泉質も入湯料も素晴らしい、とみんな絶賛するが、問題はそんなことではない。洗い場が狭く、シャワーもなし、後ろでみんなが順番待ちして待っているような温泉には行きたくない。そんなところで気分がリフレッシュできるわけがない。いい温泉なら、山ではなく観光で行くから、山のときだけは秘湯・名湯の類は勘弁してほしい。
 温泉の帰りは、プリミエ比内という道の駅で買い物。生まれて初めてウド(栽培もの)を買った。その場でSシェフから調理法を教えてもらい夕食に食べるつもりだ。こうしてひとつずつ山菜の料理法を覚え、実際に家でつくっている。3日前も冷蔵庫にあった、もらいもののコシアブラをさっとカラ煎りし、白だしを薄めたつゆで食べたら絶品の酒の肴になった。はてさて、ウドはどんなふうにやっつけようか。

backnumber
●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る
●No.26 登山道のないやぶ山で、昆虫になる
●No.27 ダブル登山で、県北の春山に酔う
●No.28 GWは雪の回廊を抜け、強風の山頂に立つのが夢

Topへ