中央アルプスで観光登山、それもまた楽し |
[木曽駒ヶ岳(2956m・長野県木曽町他――2013年7月27日)] |
ここ数年は毎年のように夏に信州の山に登っている。山形の友人のカメラマンがよく行くので便乗して連れて行ってもらっていたのだ。でも彼は個展の準備などで忙しそうだ。今年はあきらめようと思っていたら、長野の八十二銀行で発行している「地域文化」という雑誌から、「地方の文化活動について対談してほしい」という依頼があった。場所は長野市内だ。渡りに船と、今年も信州に行くことができた。 つつがなくお仕事を終え翌朝、地元テレビ局に勤務する若い友人のO君と二人で北アルプス唐松岳に登ることに。O君はもともと関東の出身だが、信州の山に恋い焦がれ、長野で就職し家庭をつくってしまった30代の好青年だ。もともと友人の地方出版社に勤めていた関係で知り合ったのだが、数年前、飯綱山にも一緒に登っている。 朝5時、ホテル前まで迎えに来てくれたO君は、「北アルプスは雷雨注意報が出ています。南に逃げましょう」と急きょ山行を中央アルプス・木曽駒ヶ岳に変更、そちらに向かうことになった。 長野市内から車で走ること1時間半、信州駒ケ根高原着。ここからさらにバスでロープウエイのあるしらびの平駅まで行き、駒ヶ岳ロープウエイ乗り場にだどり着く。そこからロープウエイで日本一標高の高い駅というふれこみの千畳敷駅まで登る。そこがようやく登山口。普段のこの時期の週末は、ロープウエイ2時間待ちなんていうのがざらだそうで、それを聞いただけでうんざり。今日はほとんど待ち時間なしで乗られたのだが、登山口の時点ですでに標高が2612m。ということは歩く距離は300mほどしかない。 太古に氷河が削ったという千畳敷カールを横目に、八丁坂を登り始める。 いきなりの急峻だが、実は最初で最後の登りだ。途中の中岳(2925m)までたどり着くと、後はダラダラと山頂までゆるやかなアップダウンがあるだけ。ずっと登山者の行列の尻を眺めて登るだけだ。コマクサもコバイケイソウもシナノキンバイ(ミヤマよりひとまわり大きい)も、毎週秋田の山で見慣れているものばかりだ。 天候はうす曇り、雨はなさそうだがガスっていて標高があるせいかけっこう寒い。 約2時間で山頂へ到着。ほとんど疲れない代わりに感動もない。とにかく人が多すぎて何かを感じる「余白」がどこにもない。人人人だ。とくに山ガールが目立つ。ひときわ大きな声で会話をするおばちゃんたちは関西弁だ。そうか名古屋まですぐだもんな。 もともと無口なO君と2人、ほとんど会話もなしに登頂しすぐに下山。途中にある岩峰・宝剣岳(2931m)に登ることにした。これはちょっぴり危険が伴うが、楽しかった。 木曽山脈の中でひときわ目立つ山容をもった山で、そのとがった剣先のような恰好が格好いい。1時間もあれば登って帰ってこられるのだが、岩山なのでロッククライミングの気分が味わえる。秋田では絶対に体験できないスリリングな岩登りだった。 この岩峰が一番印象に残った。
バスの終着駅・菅の台に着き、そばの「早太郎温泉・こまくさの湯」で汗を流す。広々とした露天風呂から、さっき登ったばかりの岩峰・宝剣岳がその雄姿を誇っていた。皮肉にも最高峰・駒ヶ岳は、麓から見える木曽山脈の連なりの陰に隠れて見えないのだ。温泉から登った山が見えるのは、実に気分がいい。 山頂は大勢の人がいて落ち着かなかったので、昼食をとっていなかった。温泉そばにある明治亭という食堂で、長野名物・ソースかつ丼。ここが有名な老舗なのだそうだ。ノンアルコールビールも注文、「馬たたき」というのも食べてみる。どちらも特筆すべきことは何もないのだが、かつ丼はフタに一度カツを移し、そこから取り分けて、どんぶりご飯を食べる、というのが正しいソースかつ丼の食べ方だそうだ。
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