世界遺産の山で、会うのはへんなオジサンばかり |
[白神岳(1235m・青森深浦――2013年8月18日)] |
世界遺産・白神山地の核心地を見下ろせる山である。標高は秋田市・太平山とさして変わらないのだが、白神岳は懐が深く、山ひだを巻きながらゆっくりと頂上に到達するコースだ。そのため歩きの時間は長い。 今回は2回目だが、前回登ったのは4年ほど前。雪が残っていた時期だったが、右手に見えた日本海の光景が強く印象に残っている。そんな風景を楽しみながら途中までは楽勝だったのだが頂上付近の急坂で足がつった。ほうほうのていで山頂の山小屋にたどりついた苦い記憶がある。それでも総合的な印象としては「歩きやすく、もう一度登ってみたい」と思わせてくれる山だった。 そこでSシェフに個人的にお願い。今日の総勢4人(珍しく男のみ)の山行になった。 天候は曇り空。いつ雨が降ってもおかしくない空模様。世界自然遺産登録で全国に知れ渡った山で、かつ日曜日だというのに、登山口の駐車場には2台の車しか止まっていなかった。天気のせいなのだろうか。 いつ降り始めてもおかしくない暗い空の下、歩き始める。登山道が暗いだけでなく蒸し暑い。ガスっていて景色は見えない。木々の上からはものすごい風の音が聞こえる。まるで台風のような轟音だ。なのに山中の我々にはちっとも風が吹き込んでこない。全身からは蒸し風呂に入ったような汗が吹き出す。 ダラダラしたアップダウンが続き、そのあとに急坂。またしてもダラダラが続き、しだいに登りが多くなる、という形状だ。海はまったく見えない。稜線に出たあたりで風が直接感じられるようになった。ここでウインドブレーカーを着て寒さを防ぐ。 早くも遅くもなく淡々と登り続け4時間、ようやく山頂に着いた。途中で下山する軽装の親子連れに会った。子供はランニングに短パン姿、親も似たようなかっこうでスニーカーだ。天候異変があったら、この親子は一発で事故にあう。親は何も考えているのだろう。たぶん山に慣れた親子なのだろうが、言語道断の軽装は、山を舐めているとしか思えない。
下山に3時間半かかった。ものすごい苦労をして登るのに4時間で、鼻歌まじりで駆け下りてくる同じ山にも3時間半かかる。この事実が頭の中で整理できない。下りるという行為も、実はものすごい体力と慎重さと時間がかかっているということなのだろうか。下りではちょっと異様な光景に遭遇。上半身裸の、あんこ型の太った男に出会った。遠目には肌色のシャツを着ているように見えたのだが、近づくと本当に裸だった。「蒸し暑くて」と訛りのきつい青森弁で弁解していたが、「裸の登山者」というのは初めて見た。さらに下山すると分岐付近で突然、歯がほとんどないヘンなオジサンに会った。おしゃべり好きで(やはり青森弁の訛りが強い)、百名山踏破が夢らしい。「青森の方ですか?」と訊いたら、「違う。十和田市だ」と言われてしまった。よくわからない。 * 降りそうで最後まで雨はなかった。ついている。温泉は秋田県八森にある「いさりび温泉ハタハタ館」。広くて清潔で明るい。八森という町は妙に気になる。いつかこの町に3泊ぐらいして、町の隅々まで観察してみたい、と思っている。 |