No.43
早池峰の、代替がきつかった、岩の山
[鶏頭山(1445m・岩手県遠野市――2013年9月1日)]
 過去に早池峰山には2回チャレンジ、ともに失敗に終わっている。1回目は4合目付近で雨がひどくなり、雷までなりだしたので引き返した。前日にお向かいの薬師岳に登ってヒカリゴケを見られたのだけでも良しとしよう。その翌年もチャレンジしたが、このときは前日に仕事がらみで泊ったタイマグラの民宿で飲みすぎて体調不良で、パス。今回は悲願の「3度目の正直」である。
 前日はSシェフの妹さんご夫婦のいる滝沢村のお宅に泊めてもらった。初対面のご夫婦だったが、温かく迎えていただき、こちらも気をよくして5時から延々5時間ほど呑み続けてしまった。本来なら山の前は自重するのだが、体重が落ち、このところ体調もいいので、「早池峰ぐらい」と侮ってしまった。まだ1度も登ったこともないくせに。
 朝5時起き。滝沢村から遠野にある登山口までは1時間ちょっと。天気はうす曇り。いつ雨が落ちてきてもおかしくない。7時前に登山口に到着。監視員が沈鬱な顔で「5合目付近の風が強く、登った客が下りてきた」という。今日の参加は秋田組のモモヒキーズ3名とSシェフの妹さんの4人。鳩首会議の結果、早池峰をあきらめ、そばにある鶏頭山に登ることに。標高が500メートル低いので風の影響はない、との判断からだ。う〜ん、早池峰はやっぱり3度目の正直だったか。
 鶏頭山はまったく初めて聞く山だ。早池峰連峰の岩峰で、早池峰からの縦走もできる連なりの山だ。昔、Sシェフの妹さんは昔、登ったことがあるそうだが、まるで予備知識のない山に登る、というのは初めての経験だ。

山頂までは遠かった。

山頂付近はこんな岩場がつづく
 なだらかな樹林帯はとにかく蒸し暑い。汗がとめどなく出続ける。いくらぐらい歩けば山頂に着くのか、急峻な登りは何か所あるのか、岩場は危険なのか、まったく誰も何も知らない。早池峰の代替の山だから、本体よりもハードということはないだろう、という淡い希望だけにすがって歩き続ける。しかし、登っても登っても山頂は遠い。早池峰山でコースタイムは2時間半だ。暑い。登山者もほとんどいない。ようやく尾根筋に出たあたりから風が吹いてきた。風が出てくると同時に樹林は消え、ごつごつした岩山が立ちはだかる。奇妙な形をした岩がそこらじゅうにごろごろ。鉄ばしごを5つ超えたあたりに「ニセ鶏頭山」なるピークがあった。そこから頂上までは更に20分以上歩かなければならない。ニセ鶏頭のあたりでとっくに早池峰のコースタイムを通り越していた。けっきょく山頂までは3時間たっぷりかかった。正直なところかなりきつかった。山だけのせいではない。前日の酒、寝不足がたたった。下りはフラフラで2時間半かかって下山。とにかく疲れた。知識のまったくない代替の山を、見くびってしまった。
                          *
温泉は滝沢村にもどり、相の沢温泉「お山の湯」。村民のための健康増進施設だ。ここは前にも何度か来ている。鞍掛山の帰りによく入っていた温泉だ。そういえば鞍掛山はよく登っている。春先、秋田側からみると一番早く雪が消える山、として人気がある。岩手山が浴場からくっきり見える、いい温泉だ。

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●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る
●No.26 登山道のないやぶ山で、昆虫になる
●No.27 ダブル登山で、県北の春山に酔う
●No.28 GWは雪の回廊を抜け、強風の山頂に立つのが夢
●No.29 街から7キロ先に、千メートル級の山があるの?
●No.30 下水掃除と宮沢賢治とアイゼン登山
●No.31 青空・無風・トラブルなし。雑魚10匹より大物1匹
●No.32 みんな嫌がるけど、オレは好きだヨ、東山
●No.33 週末連続登山で、体力は大丈夫か、ジブン
●No.34 地元のプロと一緒だと、山歩きは百倍楽しい
●No.35 ブナと滝のシャワーを浴びて、少し元気になってきたゾ
●No.36 あれッ、なんだか人並みに体力がついてきたかな
●No.37 雷に追われ、山小屋泊まり、ガスっても岩手山は美しい
●No.38 県内最強のタフな山で、野立の誕生会
●No.39 中央アルプスで観光登山、それもまた楽し
●No.40 面白みはなくても、一度は登ってみたい虎毛山
●No.41 世界遺産の山で、会うのはへんなオジサンばかり
●No.42 ずっと踏破してみたかった、歴史の古道

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