No.52
地元の人と登れば、山の表情が違って見える
[伊豆山(208m)・姫神山(387m)神岡町――2013年12月8日]
 以前、大曲市の山サークルの人たちから声をかけていただいて、姫神山、伊豆山、神宮寺嶽の3つを縦断したことがあった。小さな山ばかりなのに、けっこう疲れて、ハードな山行だったことを覚えている。車に乗って国道を走ると、いつもこの3つの山が見える。そのたびにあのときの山行を思い出してしまう。
 今回は神宮寺嶽へのアクセスに問題があり、伊豆と姫神の2つの山を横断することになった。すごい傾斜の、ストックが使えない登りがあるのは、たしか神宮寺嶽だった。残念。 小さな山とはいうものの、山名の由来一つとっても古い歴史や風格を感じさせる山々だ。姫神は陸奥の豪族・安倍貞任の城があったところだし、ドイツの建築家・ブルーノ・タウトがその冬景色を激賞している。
 最初は伊豆山から登り始めた。30分ほどで山頂に立ち、神社に参拝、急いで下りて、そこからさらに車で姫神山の登山口まで移動する。
 姫神も1時間ほどで山頂にたどり着くが、坂の途中で一人登ってくる地元の登山者と会った。昔、3山を縦断をした時のリーダーMさんだった。この山はMさんの散歩コースなのだそうだ。
 その後は、Mさんの案内でいろんなことを教わりながら下山。その山を知り尽くした人と登る山は格別だ。その言葉の端々から山の違った表情がたち現れてくる。

伊豆山入り口のねじれ杉

あれ、この山の名前、なんだっけ
 温泉は「嶽の湯」。lここは浴槽も広く、明るくて好きな温泉だ。泉質もぬめりがあり、なのに透明感のある、肌にしっとり来るお湯だ。
 いつもより長風呂を心がけて身体を温めたのにはわけがある。このあと、温泉の近くにある神宮寺の「刈穂酒造」へ蔵見学にお邪魔する予定なのだ。酒蔵はひんやりしている。風邪をひくと大変なので、長湯で身体を温めておこうという魂胆だ。
 神岡町にある酒蔵「刈穂」は久しぶりだ。いつ来ても清潔でよく片付いている。
 昔、よくこの蔵に県内外の人を案内した当時のことを思い出した。まだそんなに有名ではなく全国区になる前のことだ。
 蔵の奥には昔ながらの六つの船(もろみをしぼる箱)があった。京都の有名な料亭の主人Hさんを案内した折、彼はこの船をみて驚愕、自分の店のプライヴェート酒に「六舟」と名付け、この船を残すように懇願した。これがきっかけで刈穂の大ヒット商品「六舟」は生まれたのだ。Hさんが訪ねた当時、酒蔵ではこの古臭い船を廃棄するための準備に入っていて、もうほとんどタッチの差だったのだが、Hさんの執念が実って保存が決まった。廃棄を思いとどまった 酒蔵の見識も称賛に値する。
 その船がまだちゃんと残っていて現役で活躍をしていた。
 ちょっぴり昔を思い出し感傷的になってしまったが、もう20年近く前の話だ。

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●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る
●No.26 登山道のないやぶ山で、昆虫になる
●No.27 ダブル登山で、県北の春山に酔う
●No.28 GWは雪の回廊を抜け、強風の山頂に立つのが夢
●No.29 街から7キロ先に、千メートル級の山があるの?
●No.30 下水掃除と宮沢賢治とアイゼン登山
●No.31 青空・無風・トラブルなし。雑魚10匹より大物1匹
●No.32 みんな嫌がるけど、オレは好きだヨ、東山
●No.33 週末連続登山で、体力は大丈夫か、ジブン
●No.34 地元のプロと一緒だと、山歩きは百倍楽しい
●No.35 ブナと滝のシャワーを浴びて、少し元気になってきたゾ
●No.36 あれッ、なんだか人並みに体力がついてきたかな
●No.37 雷に追われ、山小屋泊まり、ガスっても岩手山は美しい
●No.38 県内最強のタフな山で、野立の誕生会
●No.39 中央アルプスで観光登山、それもまた楽し
●No.40 面白みはなくても、一度は登ってみたい虎毛山
●No.41 世界遺産の山で、会うのはへんなオジサンばかり
●No.42 ずっと踏破してみたかった、歴史の古道
●No.43 早池峰の、代替がきつかった、岩の山
●No.44 知っていそうで、知らなかった駒ヶ岳
●No.45 ストックを、持ち逃げされた秋の山伏
●No.46 侮ってしまった! やっぱり太平山系はきつい
●No.47 この山には、もう来られないかもしれない
●No.48 山よりも、ランチと温泉が楽しいこの季節
●No.49 晩秋の雪山は、みごとな小春日和
●No.50 今年もまた、やってきたリンゴ狩りの山
●No.51 33体プラス番外9体、石仏訪ね完全踏破

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